木もれび第71話
M木輪 芳野栄氏
親を大切にする

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 「人間も動物も自分の産んだ子を大切に育てるけれど、育った子が親を大切にするのは、人間だけである」という話を聞いたことがあります。「親に恩返しをする」「親に感謝する」というのは人間だけが行うことができるとても大切な行為だという事です。
 では、親を大切にするというのは、どういうことなのかを考えてみました。一つは、親に感謝するということだと思います。「いま、ここ」にある命を授けてくれ、ここまで育てていただいたことに感謝するということです。もう一つは、親に心配をかけないということです。何より自分を含めた家族が健康で、日々元気に仲睦まじく暮らしていることを親に知ってもらうことです。せめて自分の誕生日には、家族そろって両親のもとを訪ね、元気な顔を見せてあげることが一番だと思います。さらに親に頼らずに「精神的自立」や「経済的自立」をはかることも大切だと思います。
 私の場合、両親はすでに他界していますが、両親の命日や私の誕生日には父母の恩が大きいことを説いた「父母恩重経」を唱えることで、さまざまな受けた恩徳を思い出しながら感謝の気持ちを伝えるようにしています。
 今回は父母の「十種の恩徳」のうち「嚥苦吐甘(えんくとかん)の恩」と「廻乾就湿(かいかんじゅしつ) の恩」について思い出してみたいと思います。
 「嚥苦吐甘の恩」とは親は苦くまずいものを食べ、甘くおいしいものを子に与えるという恩をいいますが、私にはこんなことがありました。食事の時に母が自分によそうご飯やおかずは残り物ですませようとしていました。しかし、子どもには炊き立てのご飯や作り立ての食べ易いおかずを食卓に並べてくれていました。魚は、母親は骨の多い食べ難いところ、子どもには、骨の少ない身の多い食べ易いところをまわしてくれていました。場合によっては子供が食べすぎるあまり、母は口にするのが少なくなってしまったこともあったようです。
 「廻乾就湿の恩」とは、子のために乾いた場所を譲り、自らは湿ったところに寝てくれた恩をいいます。小学生の時、私は両親と一緒に寝ていました。寒い夜中トイレに行って冷えた体を温めてくれるように母は自分の布団の温かいところに私を導いてくれ、母は冷たいところに身を寄せていました。母のそのような温もりは私の身体と心をあたためてくれました。ありがたいことだと思います。
 私はこのような親からの恩に感謝し、今度は次世代にこうした恩を送っていきたいと思っています。それが私にとっての「親を大切にする」ということになると思っています。同時にそうすることが現在の世の中の荒みを減らしていくことにつながるとも思っています。

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