木もれび第73話 M木輪 芳野栄氏
負ける練習

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 会社を経営していると、上手くいかないことばかりです。次から次へと難問が押し寄せてきて、どう対処したらよいのかわからなくなることがよくあります。そんな時「いまの状況の中で自分にできることをひとつひとつ丁寧に行動していこう」と自ら勇気を奮い立たせて対応しております。
 仕事の中で若者と接していますと、自分の思い通りにいかなかったり、失敗したり、難問にぶち当ってしまうと、しょげてしまったり、自信を無くしたり、必要以上に右往左往している姿を見ることがあります。これまで、多くの人からの援助を受け、上手く事がはこぶ経験がほとんどで、そうした壁に当たることなく人生を過ごしてきたからなのでしょうか。
 相田みつをさんの作品に次のような詩があります。

受け身・負ける練習
柔道の基本は受け身 受け身とは、投げ飛ばされる練習
人前で転ぶ練習 人前で負ける練習 人前で恥をさらす練習

 長い人生の中では、カッコよく勝つことよりも上手くいかないこと、ぶざまに負けたり、だらしなく恥をさらすことの方が、はるかに多い。だから事前に、転ぶ練習や負ける練習や恥をさらす練習をしておくことが必要です、ということでしょう。
 私の場合、兄弟が多い家庭で育ち、自分の希望や思いがなかなか通らなかったりして、心を鍛える環境が自然に整っていました。そうしたことで、じっと耐えたり、うまくいかないことが当たり前の人生なんだと学ぶことができました。
 一方今は、少子化の中で兄弟が少なくなり、自分の望みがすぐに満たされる傾向が強くなってきました。転んだり、人前で恥をかいたりすることが少なくなってきました。失敗する前に手を差し伸べられ、逞しさに欠けた、ひ弱な、問題解決能力に欠けた大人に育ってきているように思います。
同時に、人間関係能力についても未熟さがそのまま表にあらわれてきているようです。最近人との関係の中で「心が折れた」「心が折れそうだ」という言葉を耳にしますが、心は折れるものではありません。身のまわりに起きることがらを素直に受け入れることができない自分の心の未熟さを自分で露呈しているようなものです。
 子供のころから何ごとにも、相応の責任を持たせ対応させること。子供がケンカに負けても、転んでも、恥をかいても、親はじっと我慢してその成り行きを愛情をもって温かく見守ってあげることが大切ではないでしょうか。
 また、大人になっても、あるがままを受け入れ、正しく判断でき、正しく対応できる素直な心を身につけていくことが、負ける練習をくり返し、心を鍛えていくことになるのではないかと思っています。

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