学校給食を考える6

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緊急事態宣言が全面解除
 政府は5月25日、新型コロナウイルスに関する「緊急事態宣言」について、全都道府県での解除を発表した。これに伴い、各地方自治体は飲食店への営業自粛要請を段階的に解除。また、ソーシャルディスタンスを始めとする「三密」対策やマスク着用、アルコール消毒などの施策は、政府が提言している「新しい生活様式」に沿った形での営業が求められる。

製造・販売業ではなく加工業であるという特性を理解しほしい
 大阪府学校給食パン・米飯協同組合理事長で吉田M代表取締役の吉田日士光氏は、学校給食を通して人口分布の変化と学校給食パン製造の特性などを次のように話した。
 大阪府北部の能勢町では3年前まで6校にパン給食を運んでいたが、著しい人口減少により小・中学校が併合され1校のみになった。
パン給食は週に1回。全校生徒は約300人で、町内を循環するスクールバスで通学している。提供側には配送効率が改善されたといえるが、人口減と都市部への人口集中を目の当たりにしている。当組合全体では、若干の食数増傾向で、大阪市の中心部では運動場にプレハブの校舎を増築している学校もあり、小学校のパン給食は平均で週に1.7回。中学校給食も全国的に見ると恵まれた環境なのかもしれない。しかし、大阪市から離れた北部や南部の過疎化が進み、特に南部の減少が際立っている。
 学校給食は、小・中学生の健全な発育の一部を担っていることから、バランスの良い食事の提供が何より優先されなければいけない。大人の都合によって主食が米に偏ることや副菜の材料が決められることがあってはならないと思う。私が想うバランスのとれた主食とは、週に米飯が3回、パンが2回。主語を「小・中学生」にした上で根本的な見直しが必要だと考える。そうすると、パン給食が増えることはないが、何も言わなければ全国的な規模で米飯給食に流れてしまいパンの提供回数は減少の一途を辿る。全パン連で取り組まれている「パン給食週2回」という目標を全国の学校給食パン提供業者が力を一つにして達成したいと思っている。
 給食提供業者に対する補償(地方創生臨時交付金)について、対応が遅すぎると思っている。3月分に関しては、政府主導の休止であったため何とか進んでいる自治体が多いと聞いているが、大きな温度差が生じていることも事実。年度が改まる4・5月分に関して同様の措置がなされるとは思えない。最悪で4・5月分の補償ナシを想定しておかなければならない。元々、文部科学省が全国の自治体に向けて通達したことだが、どこかで立ち消えになっているような気がする。
 学校給食パン製造は、商品を企画し原料を仕入れて加工して売る製造・販売業ではない。原材料を支給され、決められた配合で、決まった重量に仕上げる加工業である。それは、学校給食が始まった時から何も変わっていない。加工業であるがゆえの特性(規模・設備・人員配置等)があり、パンの種類・納品日・時間も決められているため、世の中の製造・販売業とは大きく異なる。そのことを理解し、今回のような長期の緊急事態を考慮してもらわなければ、全国の学校給食パン提供業者の存続を揺るがすことになる。しかし、過去の経緯が置き去りにされ、契約書に記載されていない事象であるため、自治体によって解釈が様々で対応に温度差が出ている。

安心して事業継続ができる土壌を築く
 全パン連青年部総連盟会長、兵庫県パン協同組合専務理事でMヒシヤ食品代表取締役社長の草野洋一氏は、学校給食費返還事業等と今後の学校給食の在り方について次のように話した。
 全青連給食委員会のメンバーは週に1度、Line会議を行ない、リアルタイムな学校給食の実動を情報交換している。  GW前、全パン連加盟事業者を対象に給食提供業者への学校給食費返還事業等に対するアンケートを実施したが、市町村単位での対応が様々で、約半数程度しか承諾が得られていないという事実が明らかになった。全都道府県の市町村で承諾が得られ一斉支給という形を望んでいるが、申請と承諾が済んだ市町村から順次支給になりそうだ。
 学校給食費返還事業等支給までの流れを整理すると、文部科学省が全国学校給食会連合会に通達を出し、全給連は都道府県市町村の学校給食会に指示をする。それを受けて給食提供業者に内容が伝えられる。給食提供業者は、月度納入報告書を作成し学校給食会に提出。学校給食会は都道府県市町村に回付し都道府県市町村が承認すると、給食提供業者は請求書を発行し入金に至る。
 補助金は、都道府県市町村が一旦立て替え、後に文部科学省から都道府県市町村に支払われる。都道府県市町村への支払いが立て替え金額の全額であれば問題は起こらないだろうが、文部科学省(国)が4分の3を負担し、残りの4分の1は地方交付税で賄われ、都道府県市町村が一部を負担しなければならないため温度差が生じる要因になっている。また、全給連や学校給食会は、事務的な処理を行うだけで何の付加価値も生じないため、学校給食費返還事業等に対して積極的な動きをしようとしない。
 全国には、財政に余裕があり地方日交付税を受け取っていない市町村が存在する。それらは、学校給食費返還事業等の4分の1を全額負担することになる。また、近隣市町村の判断次第で支給を決める自治体もある。最終的に文部科学省が再通達しても納得せず、支給を拒否する自治体がある。
 他県では、パン産業振興議員連盟や個人的な人脈で議員の力を借りて、学校給食費返還事業等支給の働き掛けを行なっている。しかし、支給される側の給食提供業者がそのような働き掛けを行わなければ支給されないのかを疑問に思う。
 学校給食は、6月から分散・簡易給食での再開がほぼ決まっており、各組合や工場単位でガイドライン等の作成作業を行わなければいけない。そのような中、4、5月分の新たな地方創生臨時交付金請求が正常に行われるのかを危惧している。既に県内のある市からは、4月分の交付金支給はしない旨の通知が届いている。従って、給食休止期間が明確な5月分でも当然支給される見通しはない。
 神戸市の給食提供業者は、学校給食会と年間契約を締結している。内容は、食数と総額に対する補償は盛り込まれておらず、単に加工賃単価が明記されているだけ。提供業者側に対してクレームや不適切な事象へのペナルティーは載っている。
 大きな不安は、次世代、次々世代が学校給食を提供する仕事に就きたいと思うのかということ。人間的な繋がりの要素が薄れ、同業者間の横の繋がりも気薄になり、規定と契約だけで判断されてしまうような商売を好き好んでやりたがらないだろう。私たちは、不平不満を溢しながらも、前向きに取り組んでいる。今のうちに安心して継続できる土壌を我々が築かなければいけない。

4月以降の地方創生臨時交付金は市町の教育委員会と個別に交渉
 全日本パン協同組合連合会常務理事、山口県パン工業協同組合理事長で長寿製パンM代表取締役社長の松村豊氏は、複雑な仕組みや制度の中にある学校給食について次のように話した。
 各都道府県で契約形態は異なっている。山口県は、組合員が組合と契約し、組合は学校給食会と契約、学校給食会は各市町の教育委員会と契約という流れがある。組合員が教育委員会と直接交渉等をしようとすると、学校給食会はルールに沿った流れで交渉せよというクレームが入り、同様の事例が頻発している。しかし、何から何まで契約通りかというと、そうではない部分も多い。何かで動けば人件費が必要になるため、今後どのように上手く解決していくかが課題だと思っている。
 山口県は毎年、児童・生徒数が減っている。それに見合う加工賃が上昇するならば問題は無いが、むしろ加工賃を下げる傾向にある。また、学校の統廃合が無い限り、全ての学校に配送しなければならないため、配送経費を削減することができない。
 弊社は、パンと米飯を製造しているが、徐々にパンが米飯に置き換えられている。パンが減っても米飯が増えるので総量には変化がないといわれるが、そのような単純な構造ではない。米飯が増えるとセンター炊飯に切り換えられ、米飯給食が一気になくなる。パンは専門業者でなければ作れないので、センター化はできないが、回数が減ると益々生産効率が悪くなる。
 今回のコロナは、給食製造業者も学校給食会も教育委員会も想定外の出来事。3月は、学校給食会主導であり、地方創生臨時交付金の活用が具体的に示されておらず、パン、米飯等の加工を含む等の文言は一切記されていなかったが、年度が改まり、5月1日に内閣府地方創生推進室が発表した[新型コロナウィルス感染症対策地方創生臨時交付金活用事例の1活用事例紹介新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた地域経済、住民生活の支援1地域経済の維持(主に休業要請等に関連)の47学校給食関連事業者等への応援事業]には『他の支援施策の対象とならない又は超える部分について、臨時休業等により影響を被る、牛乳などの学校給食用食材納入事業者や給食調理事業者(パン、米飯等の加工を含む)、スクールバス運行者等が、学校再開時に安定的に事業を継続することができるよう、一時的な代替販路確保や体制維持等に必要な取組に対し、奨励金等により支援』と明記されているため、4月以降分は、この活用例に沿って市町の教育委員会と個別に交渉しなければいけない。
 下関市教育委員会と交渉しても年度が変わってしまっているため、遡って支給することはできないといわれ、下関市は3月の学校給食費返還事業等を申請しなかった。経済産業省からの持続化給付金でつなぐしか方法がない。
 学校給食に関するあらゆる問題は、児童数の減少にある。国策として、子ども(人口)を増やす政策を具体化しない限り解決できないと思っている。学校の統廃合を促進し配送コストの軽減を実現してほしい。給食製造業者ができることは、製造方法を見直し、短時間でおいしいパンを作ること。

給食制度の抜本的改革に迫る
 今年1月号より「学校給食を考える」をテーマに、創刊70周年を迎えるに当たり弊紙の起源となる学校給食パンについて、自分なりに学び、給食パンに携わる人を取材した。学校給食制度は知れば知るほど複雑で、詳細に亘るルール、自治体により解釈が異なる制度運用など、パンを提供する業者の立場で抜本的な改革は非常に困難である。一言で表現するならば「不可能」。しかし、将来のパン食普及や日本の食文化に想いを馳せると、諦めている場合ではない。パン産業振興議員連盟、学校パン給食推進協議会、全日本パン協同組合連合会など小さな声を拡声できる機関が整い、「おいしいパン」を作る技術レベルも備わっている。正しい歴史を共通認識として持ち、具体的に一つずつ改善に向けた制度(契約)の革新を進めることこそ、学校給食パンの未来を支えることだと思っている。
 来月号以降も加工賃の単価契約に対する疑問点など、より充実した内容で学校給食を考えたい。

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