学校給食を考える 17

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 奈良県パン工業組合理事長の岩井弘行氏は、現在の提供状況やコロナの影響、学校給食事業の将来展望などを次のように話した。
《パン工業組合の概況》
 奈良県パン工業組合の理事長に就任して1年も経過していない。前理事長から引き継いだ時は既にコロナ禍で、学校給食が過去に例のない状況に陥っていたため、組合運営が通常通りに行えていない。
 組合の創立は、1969年12月。奈良県は以前、工業組合と協同組合があった。現在は工業組合のみで、学校給食と市販を提供する会社が10社と市販のみが4社で合計14社。市販のみ4社の中には、以前学校給食を提供していたが撤退した会社もある。学校給食10社の内訳は、パン・米飯の両方が4社、パンのみが6社。米飯のみを提供している会社の中には、過去にパン提供の実績があるが、パン事業を撤退したため奈良県パン工業組合に属すことができなくなった会社が含まれている。
 将来の学校給食を考えると、米飯とともに力を合わせなければならず、そのような意図から組合名を変更して門戸を広げている県もある。奈良県は、諸事情により別組織だが、パンと米飯を併せて学校給食全体を考えることが課題だと思っている。
《現在の提供状況》
 県下のパン提供数は、約10万食/日。奈良県南部は、パンの配送が困難な地域があり自校炊飯でパン給食がない。パン給食が残っていた時でも自社配送ではなく郵便配達と抱き合わせていたという事例もあったが、今年度からほとんどが週に5回の米飯給食になった。県南部からはパン給食の要望が出されており、大人の都合や効率化だけで推し量れない部分があると考えている。提供学校数は小・中学校合わせて約300校。パンの提供回数は週に0〜2回1〜1.5回が多い。
《コロナの影響》
 学校給食の一時休止は、市町村によって異なっていたため、期間が明確に特定できない。3月分の学校給食費返還事業等で加工賃の約90%に当たる補償金は、組合員全員が受け取った。4・5月の地方創生臨時交付金は、市町村によって対応が違い、奈良市・大和高田市・天理市などは全く支給されなかった。4月のみの支給が桜井市などで4・5月が支給されたのは明日香村など僅かだった。回答なしもあり、現在交渉中も残っている。都市部ではコロナの影響が大きかったが、山間部など影響が少ない地区では給食再開が早く、休止した日数が少なかった場合は、対象から外れたという事情もあった。
 同工業組合専務理事の森嶋一徳氏は、「私たちの力だけでは受け入れられないため、各所に相談を持ち掛けたが、期待する回答が得られなかった。一方で、複雑な申請書類の作成や審査を通過しやすい書き方などは勉強になった」とコロナ禍で交渉ごとの難しさを実感したという。
 悔しい思いもした。学校に対して休校要請はしたが、学校給食提供業者に対して休校要請をしていないため、地方創生臨時交付金の対象にはならないと言われ、理不尽だと思った。反面、持続可能給付金、雇用調整助成金は非常に有り難かった。
《ウイズ・アフターコロナ対策》
 前述のように、理事長就任後、役員会の開催もできず、個々のやり方を電話で話す程度なので、組合としての具体的な対応策を練ることができていない。
《学校給食会との関連性》
 塩分濃度の指定は、昨年度から1.7%になった。全国平均がその時点でおよそ1.7%だったので、試食を行なった結果、全国レベルに合わせることになった。但し、塩分過多が及ぼす健康への影響は理解できるが、減塩がパン食離れに繋がらないよう充分考慮してもらいたい。食べておいしいパンでなければ、残渣増に繋がりかねない。
 当組合の歴史の中では、学校給食会と様々な摩擦が生じた時期もあったように聞いているが、現在は加工賃交渉で最低賃金の上昇等を考慮して決定されるなど、双方が歩み寄って良好な関係が構築できつつある。  加工賃には、人件費や工場の減価償却費は一応含まれてはいるが、後進の育成や安全衛生への対応、機械設備の更新などを含めた加工賃になるべきだと思う。
 奈良市は、パン給食が週5回の時代にパン製造工場を所有していた。しかし、1976年に食パンラインのみと設備の老朽化を理由に、市内のパン製造業者3社に学校給食用パンの製造を委託した。その1社が「いわいベーカリー(以下弊社)」で、それまで市販パンを製造していたが、製造量を鑑みて市販パン製造から学校給食パン製造専門工場に衣替えした。
 ところが、翌1977年から週に1回の米飯給食が開始され、炊飯事業への参入を余儀なくされた。弊社の経緯が示すように、一旦主食の製造を業者に任せたにも関わらず、さらに今から5〜6年前より自校炊飯に切り替えられ、非常に憤りを感じている。
《学校給食事業の将来展望》
 学校給食には様々な有効性がある。朝食給食の実施で偏差値の向上を図ることや土曜日給食で保護者の負担を軽減することなど。土曜日に行われる参観日には給食の提供を依頼されたこともあった。  事業継承を円滑に行うことができれば、製造品目を変化させることにより将来の展望は描ける。そのためには、次世代以降が事業を継承したくなる業態でなければいけない。社会に役立っている仕事をしている自負を持っており、利益だけを追求しているのではない。

【奈良県パン工業組合】
〒630-8042奈良市西ノ京町126Mいわいベーカリー内
TEL0742-36-2715、FAX0742-36-2716


 三重県パン協同組合理事長の吉田和義氏は、県下の学校給食状況やコロナの波紋、学校給食事業の将来展望などを次のように話した。
《県下の学校給食状況》
 28歳の時に組合の幹部になった。その時組合員数は、現在の約4倍だった。創設期から三重県パン協同組合1組合のみで、今は18社が加盟している。パンのみを製造している会社が3社、米飯のみが3社、あとの12社はパン・米飯両方を作っている。パンを製造している会社の中には、大手パンメーカーの下請けをしている会社が1社5社が高校の売店などで売るパンを作っている。三重県の高校は自動販売機が設置できないため、全ての購買は人を介している。
 県下の総食数は約9万食/日。パン給食は週に1〜2回。自治体の方針によって異なっているが、約90%が1回で、四日市市・津市が2回。週に2回は、供給側の働き掛けによるもので、パン・米飯両方を提供している業者は内訳が変わるだけだが、パンのみを供給している業者にとっては死活問題になるため、交渉して都市部の週2回が達成できた。パン以外は全て米飯で、麺は副菜の一部という位置付けになっている。従って、機会は少ないが、主食のパンと副菜がうどんの給食も存在する。公立の小学校は全校だが、給食を実施している中学校は5市のみ。また、3市が給食センターを所有しており、副菜とともに炊飯事業も行なっている。米飯のみを提供している業者は、自治体が炊飯事業を行ってしまうと、経営が成り立たなくなるため、必ずセンター建設前に話し合いを持つことになっているが、その基本スタンスを無視する自治体もある。
 三重県の約95%が学校給食を食べているが、給食パンを届けることができない紀南地区(尾鷲・熊野)の一部では、他地域でパンの日は自宅から飯を持参している。当センターのある鈴鹿市から和歌山県界に近い紀南山間部まで、高速道路を利用しても片道2.5時間かかる。高速道路が整備されていない時には片道4.5時間を要した。また、離島も存在している。志摩には学校の数は少ないが無数の小島がある。
 松阪市以南には、学校給食を提供する業者は存在しない。伊勢市にも当然業者はない。最盛期には4社あったが全社廃業。観光などで人が集まることと子ども数は全く連動していない。
 三重県学校給食会との契約は前日焼き。当日焼きのパンを運ぶことも持ち上がったが、実際には配送面で困難を極めるため消えた。
 パンの塩分は、1.8%が1.6%になった。児童・生徒の健康を考えるならば、塩分の総摂取量を指導しなければいけないと思う。いくら学校給食パンの塩分濃度を低くしても、他の食事で高塩分を摂っていたら意味がない。加えて、残さず食べて基準摂取量を満たすのであれば、残渣はどのように考えているのか。先ずは、残さずに食べさせることが第一ではないかと思っている。
《コロナの波紋》
 新型コロナウイルス感染拡大防止による休校で学校給食が一時休止したが、発注済みになっている学校給食に対して納得できる処遇となるよう三重県選出の厚生労働大臣を通じて陳情することにした。それが直接効果を生んだかは定かでないが、3月分の学校給食費返還事業等で加工賃の約90%にあたる補償金が、全国で支給されることになった。
 3月分の補償金は、全組合員に支払われた。しかも、学校給食会が全額を立て替えた。しかし、4月以降の地方創生臨時交付金などは「0」だった。
 衛生面では、アルコール消毒などコロナを通じて皆が今までより意識するようになった。ノロウイルスやO-157の時には、そのような対応が身に付いていなかった。また、人との付き合い方もマスクをするという菌に対するエチケットも浸透していなかった。コロナ禍は今でも収束していないが、より安全に日常を過ごす習慣が根付いたように思っている。
《HACCP》
 昨年6月にHACCPが制度化になり、今年6月に義務化となる。コロナ感染拡大防止策がHACCPと合致していると感じている。マニュアルは、会社によって違い、自分たちが日々行なっている作業などを数値化し、励行して記録を残すことが求められている。そのため、同じ基準で全てをその通りに行うことではないため、非常に有効な手法だと思っている。組合員には、その本来像を説明してHACCPの早期認証取得を促している。そして、次世代にその手法を継承させ、よりクレームの少ない工場を築かせなければいけない。そのことが分かっていてもできない会社もあるため、長く継続できるように組合が守らなければならない。
《学校給食事業の将来展望》
 週休2日が定着していない頃、三重県では土曜日給食を実施する動きが持ち上がった。検討している間に土曜日が休日になったため、その取り組みは白紙になった。朝食給食について三重県は、動きが見えない。  将来展望は、今よりもおいしいパン、おいしい飯を提供できるかによって存亡が左右される。おいしさと並行して衛生面を充実させるためには、製造施設を更新すること。定期的な設備投資に必要な資金が賄える加工賃にすることが重要課題だと思う。
 完全な製品を納入しても、学校で米飯箱を倒してしまい、食べられなくなることがたまにある。しかし、腹を空かして待っている児童・生徒に我慢させる訳にはいかないので、常に4クラス分程度を1時間以内で炊いて配送できる準備している。丸釜で米約五升が炊ける設備を別に用意し、ホイッパーで人が洗う。5〜6年間に数回起きたが、クレームは一度もなく、非常に喜ばれた。信頼を得ることができるだけでなく、将来の仕事にも影響すると考えられる。

【三重県パン協同組合】
〒514-0004津市栄町3-220-2F
TEL059-228-5282、FAX059-228-9517

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