ペタルマ・パイ・カンパニー〈カリフォルニア州〉
オーガニックやコミュニティへの想いを込めて

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店舗外観

アンジェロ・サセドティさんと梨奈さん
 

店舗内の様子

壁面に飾られたオブジェ

 2010年、ペタルマ市の中心部にある小さな広場の一角に、小さなパイ屋さんが開店した。オーナーは、元映画製作者の夫婦、アンジェロ・サセドティさんと星野梨奈さんだ。

 アンジェロさんは、以前から食に興味があり、1990年代に遺伝子組み換えが始まった時には、それについてのドキュメンタリー映画を製作した。食に関する映画をもう一本撮ろうかと考えていた時、それよりも、自らの手で食べ物を作りたいと思い始めた。
 「子どもの頃からパイは、デザートにもおかずになるので、パイだけのレストランがあれば楽しいだろうなと思っていました。しばらくそのことは忘れていたのですが、自分達が住んでいるペタルマ市で、他にないビジネスを始めたいと考えていた時、パイの店にすれば、焦点が定まると同時に、色々なことができると思いました」
 映画製作では、助成金を獲得し、撮影して、出来上がった作品を観てくれる人にメッセージを伝えていた。今は、パイの食材をオーガニックにすることで客に直接、オーガニック農業の大切さを伝えられる。食材は、自宅の庭で採れた作物の他、農家から買うか、ファーマーズマーケットで調達する。
 アンジェロさんは、アメリカ生まれの梨奈さんと、映画の製作現場で出会った。梨奈さんは、実家がアメリカで和食店を経営していたので、高校生の時から接客を手伝い、その経験が今に生きているそうだ。パイ屋を始めてからは、アンジェロさんを中心に二人でパイを作り、元グラフィックデザイナーだった梨奈さんを中心にロゴや宣伝ハガキを作っている。
 「パイはどこの国にもあるので、料理的に魅力があります。世界中の人が店に来て、母親や祖母が作ってくれたなどと、パイへの熱い想いを語ってくれます。様々な国の話が聞け、情報収集もできるのでおもしろい仕事です」と梨奈さん。パイは、アメリカを含めた多くの国で、ふるさとの味なのだ。
 取材日に、甘いパイは13種類あった。大きさは、直径23cm($22)と13cm($5)があり、種類によって小さな三口サイズもある。中でも、アップルパイ、パンプキンパイ、バナナクリームパイなどの定番はよく売れる。旬の柿や柚子を使ったパイも出してみたが、挑戦してみる客は少なかったという。
 バナナクリームパイは、甘さ控えめで、ふんわりした舌触りが、日本のパイに通じるものがある。人気の「エルビス・パイ」は、エルビスが好きだった組み合わせを参考に、フロマージュ・ブランコ入りのピーナッツバタークリーム、オーガニックバナナのスライス、チョコレートクリームのフィリングに、ホイップクリームとピーナッツを載せたパイだ。
 店が昼頃から忙しくなる理由は、10種類のおかず系パイにある。歩きながらでも食べられる手のひらサイズ(ハンドパイ)で、いつも温かい状態で保存されており、待ち時間がないのが魅力だ。スパイスの効いた牛肉、オリーブ、ゆで卵、干しぶどう入りのチリ風エンパナダや、カリフラワー、ひよこ豆入りカレー味などがあり、これにサラダや、日替わりスープを付ければ、バランスの良い昼食になる。在来種かぼちゃのパイは、シャーロット、松の実、とうもろこし、チーズ、セージ入りで、優しい味だ。
 梨奈さんの祖母のレシピを改良して作られたチキン・エンパナダはフィリピン風。この商品の売上の一部をフィリピンの女性団体に寄付、女性達がジュースバッグで作ったカバンも店で販売している。
 おかず系パイには、汁気の多いチキンポットパイや、ステーキ・マッシュルームポットパイ、ブロッコリー・チーズ・グリーンピースポットパイもあり、夕食にぴったりだ(直径15cm:$9.5、23cm:25ドル)。
 開店時、店舗面積は約180坪で、3種類のおかず系パイから始めたが、2012年7月には、その場所をキッチンにし、隣の店舗も借りて、合計302坪の広さになった。できるだけ自分達で改装したという店内には、遊び心がある。パイ皿を加工した鏡や、スタッフがパイ皿で作った蛇や馬のオブジェ、アンジェロさんの卵かくはん器のコレクションなどが飾られている。
 「ペタルマ市はアンティークショップが多く、そういうものが好きな人もたくさん遊びに来るので、このコレクションを見て、喜んでくれます」と、アンジェロさん。
 昨夏は、毎週末ウェディングの仕事があり、同じ週末に2、3件注文を受けたこともあるという。
 「ケーキが好きじゃない花嫁さんがウェディングケーキの代わりにパイをという場合と、デザートをパイのバイキングにされる時があります。ウェディングは開店当初からやっていましたが、特に宣伝はしなかったので、口コミで去年から増えてきました」と、梨奈さん。
 困ったのは、1月にいちごとルーバーブのパイやさくらんぼパイを注文する人、6月にアップルパイを注文する人がいることだ。
 「日本は、旬の商品宣伝がされるので、果物の季節がわかる人が多いですが、アメリカ人は全然知らないんです。私達のパイがおいしい理由の一つは、旬の新鮮な果物を使っているからなので、月毎に旬の果物のパイのリストを作ったり、写真入りの紹介本を作って、お客様のニーズに応えられるようにしました。周辺では、ワイナリーや納屋などの屋外ウェディングが人気なので、素朴なパイが合うのだと思います」
 他に、家で焼くだけのパイ販売やインターネット販売もしているが、先月からは、オフィスへのケータリング用に、ボックスランチ($4.95〜$9)を始めた。好きなおかず系パイ、サラダかスープ、それにクッキーを選ぶことができ、平日11時半から2時の間は$50以上の注文でデリバリーもしている。
 3月14日のパイの日には、近所の本屋と提携して、「パイク」(パイと俳句を合わせた造語)を募集し、パイに関する俳句のコンテストを実施したり、地元のワイナリーや銀行と提携してイベントをしたりと、コミュニティに根付いた活動をしている。
 ペタルマ・パイ・カンパニーが開店した2010年に、偶然「ニューヨークタイムズ」に「パイは次のカップケーキになるか?」という記事が出て、話題になった。パイの店が米国各地に増えてきていることもあって、ウェディングケーキとしてパイを使う人が出てきたということは、本当にそうなるのかもしれない。
(文・写真:田原知代子)

【Petaluma Pie Company】
▽住所=125 Petaluma Blvd. N.Petaluma, CA 94952
▽電話=(707)766-6743

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アップルパイなど

ハンドパイとサラダ

甘いパイのディスプレイ