ヒルズバーグ・シェッド〈カリフォルニア州〉
新しい観光名所になった
モダンな食と農のショーケース

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シンディ(左)・ドウグ夫妻

外観

店内の様子

 カリフォルニア州ヒルズバーグ市は近年、ワインの産地として有名になった。シンディ・ダニエルさんとドウグ・リプトンさん夫妻は、ワインだけでなく、地域の農業の伝統を紹介できる場を作りたいと昨年5月に「ヒルズバーグ・シェッド」を開店した。

 ドウグさんは土壌化学の博士号を取得後、長年、環境関係の仕事に携わってきた。シンディさんは食品協同体や、学校農園、持続可能性教育プログラムなどを立ち上げる傍ら、18年間以上、ヒルズバーグ市で農業をしている。長年積み重ねてきた知識と、この地域に足りないと思ったことを統合したのが、約273坪の「ヒルズバーグ・シェッド」。
 開放感のある2階建ての建物は今年、ジェームス・ビアード・アワードの最優秀レストランデザイン賞を受賞した。食と農のサイクルが美しく紹介され、訪れる人たちが見て、感じて、学べるような工夫がされている。
 入り口右手で販売される野菜や果物は、季節にもよるが、95%がオーナーの農家を含む、半径32H以内の農家から直接仕入れている。その奥の食品部門では、全米から厳選された調味料やチョコレート、ワイン、味噌などを、入り口正面にあるベーカリー・コーヒー部門と惣菜部門では、旬の果物や野菜を使った、ペイストリーやキッシュ、惣菜を販売している。
 全粒粉入りピーカンスコーンは、抗酸化物質が豊富なグレープ種粉入り。捨てられる種の再利用で、健康にも良い。
 「小麦粉より乾燥しているので、使うときに、バターか他の液体の配合を増やし、イーストの量も増やすのがコツです。少ししか入れませんが、独特の味なので、風味に奥行きが出ます」と、料理学校などでベーキングの講師もしているロレット・パッツォルドさん。リトルシャーリーと名付けられた20年もののサワー種スターターを使った全粒粉のクッキーも人気だ。フルタイムで働くキャロル・ヘイルさんと二人で、ペイストリーだけでなく、アイスクリームなども作る。バラ&カルダモン味、桃の葉入り、麹入りなど珍しい味のオーガニックアイスクリームは、素材の味が楽しめる。
 シンディさんとドウグさんは、数年前から在来種穀物に興味があり、店内のガラス張りの一室で、8種類の小麦粉を木製の製粉機で挽く。挽いた小麦粉は販売するほか、クラッカー、全粒粉のクロワッサンやパルミエに使っている。
 入り口左手には、キッチン用品部門があり、布巾などの布製品や昔ながらの掃除道具がよく売れるそうだ。  「布巾や掃除道具は、シンプルな機能美があり、使うことがわかっているので、多くの方が自分のために素敵なものを買おうという気持ちになるのだと思います」と、小売担当のチェルシーさんは言う。
 この店で特にユニークなのが、その奥にある発酵バーだ。
 「発酵飲料は、健康的でおいしく、発酵の過程を人々と話せるような場を作ろうと思いました。ヒルズバーグはワインの産地ですが、ワインだけのバーにはしたくなかったので、他の提供したいものとの共通点を考えて『発酵バー』にしました」と、シンディさん。
 発酵果物酢飲料は、世界各地にあるが、アメリカでは植民地時代、特に南部で、旬の果物を酢に漬けて保存したことが始まり。「シュラブ」とも呼ばれる。
 「果物、酢、砂糖を2週間から数カ月発酵させた飲み物で、濃縮シロップを水で薄めて飲むと、軽くてすっきりした味になります」と、発酵バー担当のギリアンさん。果物と酢との組み合わせが異なるシュラブは、毎日5、6種類提供しており、中でもルバーブとアンゼリカ・シュラブ(ロゼビネガー入り)は特に飲みやすく、子どもにも人気だ。
 生きた培養菌を砂糖と茶に混ぜる乳酸発酵や水ケフィアのほか、夏には、瓶で発酵させて、ハーブを風味付けにする乳酸発酵ソーダも作られる。発酵バーのカウンターには、デモとして、ハイビスカス・ケフィア水が48時間の発酵中だった。訪れる人が「これは何?」と質問をしたり、味見したりして、自然に学べるような環境を作っている。
 「コンブチャ」と呼ばれる飲み物は、昆布茶ではなく、紅茶キノコのことで、5〜7日間かけて茶をそのまま発酵させて作る。酸っぱくて癖があるが、健康にとても良いと、アメリカで大人気の飲み物だ。飲み易くするために、蜂蜜&生姜味など様々な味を加えているのも特徴だ。
 12種類のワインは、ワインメーカーから買う時、瓶ではなく、直接小さな樽に入れてもらう。その方が新鮮で、少ししか作っていないワインが買えたり、特別なワインを分けてもらえることもできるからだそうだ。酒類は他にも、りんごや梨のハードサイダーや、蜂蜜ワインなどが選べる。
 発酵バーの奥は、ファーム&ガーデン部門。シャベルやハサミなど昔ながらの庭仕事の道具、コンブチャ作りキット、キムチとザワークラウト作りの壷などがある。他に、蜂蜜を採るだけの目的ではなく、蜂の環境も考えた自然養蜂に関する本や道具、ハーブ、小さめのオリーブの木なども買える。
 広々とした2階のイベントスペースでは、地元農家の会合などに貸し出されるほか、シェフ、ソーセージ・ビール作り職人、蕎麦職人などを呼んで講座を開講したり、月に一度、日曜日に長テーブルで食事をするコミュニティディナーも開催する。有名なダンスグループの公演をして、文化的拠点としても、コミュニティに貢献している。
 これらを全部一気に立ち上げた二人のパワーに驚いていると、「もっとアイデアがあったんですが、これでも減らしたんですよ。好きでしていることなんです」とシンディさんは笑う。  「アイデアも野心もたくさんあるので、1年目は全てを目指している状況に持っていくことが挑戦でした。二人とも初めての経験なので、一緒に学んでいるところです」
(文・写真:田原知代子)

【ヒルズバーグ・シェッド】
▽住所=25 North St. Healdsburg, CA 95448 ▽電話=(707) 431-7433

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